コロナ死者1万人超「助けられる命 救うには」

 新型コロナウイルスに感染して亡くなった人が国内で1万人を超えた。うち8千人近くは昨年12月以降に死亡している。流行の「第3波」に見舞われてから急激なペースで増えている。
 足元を見れば、「第4波」は感染力の強い変異株が主流となりつつあり、感染拡大に歯止めがかからない。大阪などを中心に医療提供体制が危ぶまれる状況に追い込まれている。
 政府が感染抑止の「切り札」とするワクチンの提供はもたついている。犠牲を少しでも減らすため政府と自治体はできる限りの対策を講じる必要がある。
 国内で初めて死者が確認されたのは昨年2月。最初の緊急事態宣言が出されていた昨年5月に500人を超えた。昨年12月から急増した後、今年2月から3月にかけて減少傾向となった。4月から再び増え始め、1日50人を超える日も目立つ。1万人を超えた26日時点の死者数を都道府県別でみると、東京が1876人と最多、大阪1376人、北海道843人と続く。中国地方では、広島109人、山口43人、岡山38人、鳥取2人、島根は全国で唯一ゼロだった。
 死亡率は高齢になるほど高くなる。厚生労働省の集計では、亡くなった人の9割は70代以上である。
 変異株は感染力が増しただけでなく強毒化しているとされ、若い人でも重症化しやすくなっているという。感染が若者から高齢者に広がれば、重症者や死者の数が急増する恐れもある。
 重症者の急増は、医療提供体制を直撃する。大阪府では一般診療に支障が出ている医療機関もある。府が確保した重症病棟では足りず、軽症・中等症向けの医療機関で治療を受ける重症者も増えている。
 隣の滋賀県に患者の受け入れや看護師の派遣を求めるなど、既に医療崩壊と言える状況だ。患者の生死を左右するケースが増えている。助けられる命はできる限り救えるようにしなければならない。
 頼みのワクチンは高齢者への接種は始まったものの、供給量が限られ、欧米と比べ大幅な遅れが目立つ。接種対象者全員分の確保は早くて9月になる。
 それまでは重症者を受け入れる病床をいかに確保し、適切な治療を行うことができるかが鍵を握る。
 回復した患者をスムーズに別の病床や医療機関に移し、重症者に対応できる病床を空けておくなど、効率的な診療体制を構築することが重要だ。
 自治体は地域の医療資源を最大限活用できるよう医療機関の連携・調整に当たる必要がある。政府も自治体任せにせず、看護師らの人材と病床確保を広域的に支援すべきだ。
 東京、大阪、京都、兵庫の4都府県では、3度目の緊急事態宣言が出されたが、主要駅や通勤列車では普段と変わらない混雑が続いている。
 国民の「自粛慣れ」も指摘されている中、アルコール類を提供する飲食店や大型商業施設への休業要請といった対策が効果を上げられるかが焦点だ。
 休業には事業者の反発もある。中途半端な対策が繰り返され、後手に回っている印象が強い。責任を果たす政府の覚悟が伝わらなければ、国民の理解と協力を得られない。

中国新聞(2021.04.28)社説より引用 ー